日常の買い物が変わるリテールテックとは?事例も交えて解説します
昨今注目が集まるリテールテックとはなにかご存知でしょうか。リテールテックとはIT技術を用いた小売業のデジタル化のこと。私たちの日常の買い物には、すでにリテールテックが多く導入されています。今回は、誰もが密接に関係するリテールテックについて解説します。
目次
リテールテック(RetailTech)とは
リテールテックとは、小売業を表す「リテール(retail)」と技術を表す「テクノロジー(technology)」を組み合わせてできた言葉で、小売業にIT技術を導入することを意味します。つまり「小売業×IT」です。
流通、在庫管理、決済といった場面でAI(人工知能)やIoTを活用し、小売業の経営課題を解決します。
スーパーはもちろん、今やコンビニやアパレルチェーンなどでも導入されている「セルフレジ」や、勢いよく普及が進む「キャッシュレス決済」が代表されるリテールテックです。リテールテックという言葉自体にあまり馴染みがなくても、私たちの買い物はすでにリテールテック化が進んでいるのです。
リテールテックが注目される社会背景
技術の進歩
リテールテックが大きく注目される背景の一つに、IT技術の進化があげられます。
スマホの普及とともに一人一人が高いITリテラシーを持つようになった現代、小売企業も進化し続けるテクノロジーの活用が必須です。
日本よりリテールテックが進んでいると言われるアメリカや中国では、AIやIoTの他にもVR(仮想現実)、AR(拡張現実)を取り入れた小売が発展しています。日本でも社会全体のデジタル化が進んでいるため、リテールテック先進国のような技術が今後展開されるでしょう。
人手不足
人手不足問題を解決する手段としても、リテールテックは注目されています。
少子高齢化が進む中、現場の働き手が不足しているのは社会的な問題です。そのため小売業界では、人材集めより業務の中の省人化を目指す動きにシフトしました。
省人化、つまり人が関わらなくても物を販売できる仕組みを作るには、リテールテックによるIT導入の他なりません。セルフレジの活用など、少ない人材でも今まで通りに小売業ができることから、リテールテックは一気に注目を集めました。
コロナウイルス
リテールテックが注目される背景には、コロナウイルスの蔓延も一つの要素と考えられます。
2020年に起こった世界的なコロナウイルスの蔓延により、社会全体の仕組みが大きく変わり、私たちはできる限り人同士の非接触が求められるようになりました。そこで注目されたのがリテールテックです。
キャッシュレスやセルフレジにあるように、リテールテックは人と人が接触する機会を最大限減らせることから、現代社会の情勢に相応う小売として注目を集めるようになりました。
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リテールテックがもたらす恩恵
顧客体験の向上
小売業のテクノロジーが進化すると、顧客は簡単に商品にたどり着けるようになり、顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)の向上につながります。顧客体験とは、顧客が企業の商品に興味を持ち購入、利用するまでの流れです。
これまで欲しい商品は、販売場所を自力で調べ実店舗に買いに行っていたため、商品と顧客に接点が生じにくい状況でした。しかし今や、インターネットで欲しい商品を検索すれば様々な候補が出現し、顧客はすぐに商品と接点を持つ事ができます。
顧客にとって、商品にたどり着くまでの時間が短縮され比較検討がしやすい状況は、顧客体験の向上とともに顧客満足度も高まるでしょう。
マーケティングデータの取得
リテールテックはAIで消費者の行動をデータ化するため、マーケティングデータの取得が可能です。
取得した顧客の購買情報を分析することで、顧客の購買意欲を駆り立てるような商品陳列に変更したり、適切な広告を配信したりといった効果的なマーケティング戦略を立てられます。
また、商品の販売数を緻密に予測できることから、過剰な在庫やロスなどの課題解決にも貢献するでしょう。
物流センターの効率化
物流センターの在庫管理やピッキング作業などが効率化されるのも、リテールテックがもたらす恩恵の一つです。
これまでは、広い倉庫にある膨大な商品在庫を紙ベース・手作業で管理しているケースが多く、棚卸しが狂って何度と在庫確認という例も見られました。しかし、リテールテックにより倉庫の在庫を一括データ化、商品管理にバーコードを活用するなど、物流センターの正確な在庫管理が可能に。
ピッキング作業も手作業からロボットへ少しづつ移行が進み、物流センターが少ない人員でも回せる環境になり始めています。
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リテールテックが抱える課題
コストが割高
導入コストとランニングコストがかかる点を懸念する声も多いようです。
運用やバージョンアップの費用を考えずにサービスごとの費用で検討してしまう事を避けるために、長期的な視点でコストを計算しましょう。
雇用縮小の恐れ
リテールテックにより業務の自動化が行えるようになると、企業にとっては人件費削減というメリットがあります。
しかしそれは一方で、労働者にとっては雇用の縮小というデメリットにもなりえるのです。
労働者はコンピューターにはなり替わる事のできないスキルを身に着ける努力が必要だと言えるでしょう。
リテールテックが取り組む4つのテーマ
リテールテックは小売業のデジタル化を促進するため、「リアル」「デジタル」「商流」「物流」の4つのテーマでIT導入に取り組んでいます。それぞれのテーマにあるリテールテックの種類を確認しましょう。
リアル
決済・キャッシュレス化
昨今のリテールテックで急激に世間に浸透した例と言えば、キャッシュレス化です。FinTechに代表される技術が普及し、スマホでのQR決済をはじめ、キャッシュレス決済は一気に拡大しました。
日本はキャッシュレス決済の後進国と言われ、主要各国と比べ現金決済が根強い文化の国です。そのため、訪日外国人の消費(インバウンド消費)は現金決済による買い控えが目立っていました。キャッシュレス化の浸透は、訪日外国人の購買促進が可能にもつながります。
キャッシュレス化はレジの効率化の側面もあり、レジの待ち時間が短縮される効果があります。店舗にとっても利用者にとっても、キャッシュレス化は良い影響があると言えるでしょう。
無人店舗
小売業の最終形態とされるのが「無人店舗」です。
現在、セルフレジの普及は進んでいますが、レジ周りや店内には店員がいます。品出し作業や店舗の掃除など、まだまだ店舗の運営には人の手による作業を必要とするため、完全な無人店舗にはまだまだ及びません。しかし、手作業の業務もいずれはロボット化されることで、無人店舗での運営を目指します。
海外では、アメリカのAmazonGoが無人店舗として大きく話題になりました。日本では、2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅に無人店舗がオープンし、今後徐々に拡大することが予想されます。
デジタル
Eコマース
インターネットで検索して簡単に商品購入ができるEコマースの登場により、顧客と店舗の接点は大きく増加しました。Amazonや楽天市場といったオンラインショップのプラットホームの躍進もあり、今ではインターネットでの買い物が一般的です。
オンラインショップ運営のシステムを様々な企業が提供し、安価なものも多く出現していることから、近年では小さな商店でも気軽にオンラインショップを持ち運営しています。
商流
POSによる在庫管理
POSとは、商品が売れたら即座に販売情報を認識したり、在庫管理に反映されたりするシステムです。POS専用のハンディーターミナルの他にも、最近ではiPhoneやiPadでも使えるPOSも登場しています。
POSで取得した情報はクラウドで管理され、仕入や入出荷などのマーケティング戦略に役立てられます。
物流
倉庫作業のロボット化
EC市場の成長の影の一つに、物流倉庫の支えがあることを忘れてはいけません。物流倉庫への負荷は増加の一途で人手不足が叫ばれる業界です。そんな倉庫の負荷を担う救世主として、倉庫作業のロボット化に注目が集まっています。
バーコードで行っていた商品管理をAIが商品自体を認識して管理し、ロボットが商品の入荷、ピッキング、検品、梱包、出荷まで担うことで作業員への負担を減らします。
リテールテックの国内の事例
Amazon Go
Amazonで培った販売技術を使い、アメリカで展開する無人店舗です。
店内には大量のカメラや圧力・重力センサー、マイクが設置されており、誰が何の商品を手にしたかリアルタイムでAIが解析、そのまま店を出るとAmazonアカウントで決済されます。顧客はレジを通す必要なく、スムーズなショッピングができる画期的な店舗です。
ユニクロ
アパレルショップの大手ユニクロでは、RFIDを用いてレジ待ち渋滞を緩和することに成功しました。
RFIDとは、無線通信等の手段により、非接触で商品情報タグを読み取る技術です。商品情報には、価格などの販売情報だけでなく、物流に関する情報も含まれています。
ユニクロの商品にはRFIDタグが付与されており、顧客は無人レジにてRFIDタグをかざし簡単に決済が可能に。RFIDタグは商品1点ごとに振られているため、万引きの防止も役立っています。
IKEA
世界最大の家具量販店イケアは、AR技術を駆使したサービスを提供しています。
イケアのARサービスを利用すると、スマートフォンやタブレット端末を通して仮想的に家具を自分の部屋に配置した映像を見る事ができます。
購入後のイメージを事前につかむ事ができるこのサービスは、まさにリテールテックのメリットである「顧客体験の向上」と言えるでしょう。
SHEIN
中国のファストファッションブランドSHEINは、世界200カ国以上で展開しているアパレルECサイトです。
SHEINが世界に急速に発展した理由はそのビジネスモデルにあります。
まず、AIを活用したトレンド分析によりデザインから販売までに要する時間はわずか7日間という短期間です。
実店舗をもたずオンライン販売のみであるために購買データの収集も行いやすく、小さなロットで試作し状況に応じて大量生産するまでの過程が他を圧倒するスピード感で実施できるのです。
三井ショッピングパーク
ライブコマースに注目していた三井不動産が運営するのがプラットフォーム「MEETS SHOP」です。
ららぽーとを代表とする施設のテナントから希望を募り、店舗スタッフやインフルエンサーがライブ配信で商品を紹介します。
視聴者がリアルタイムで質問しながら商品について知ることができる点が画像や文字だけのネットショッピングと大きく異なると言えるでしょう。
ライブ視聴者はその場で商品購入ページから購入手続きを行うこともでき、これによりCVR25%を達成しています。
リテールテックの海外の事例
DTラボストア
ロッテ情報通信がソウルにオープンしたのが、セブンイレブンの無人自動化コンビニ、DTラボストアです。
店舗の入り口には情報を提供するAIヒューマンが配備され、Amazon Go同様に顧客が購入した商品を持って出るだけで自動的にアプリ決済されます。
光を用いた技術「LiDar」と顔認証技術を組み合わせた顧客解析を、店舗運営にも役立てています。
Nike
フットウェアテクノロジーをベースとしたコンセプトショップ「Nike Rise」は2020年の中国広州を皮切りに、2021年には韓国ソウルに、そして2022年にはアメリカマイアミにオープンしています。
Nike Riseではスマホで撮影することによって足のサイズを測定し適切なシューズをレコメンドするなど、Nike Appと連動してテクノロジーを活用したサービスを提供します。
ショップでは商品をテーブルに置くだけで説明やレビューを確認できるなど、新たな顧客体験によって顧客満足度向上を図ります。
ウォルマート
アメリカの大手スーパーチェーンのウォルマートは、多額のIT投資を行い、いち早くリテールテックに取り組んだ小売企業です。
広い店内の天井にはAI搭載のカメラが多数あり、商品の販売状況をリアルタイムで分析します。店員が店内を歩き回り在庫確認をしなくても、AIの分析で適切な商品補充が可能となるなど、ITを駆使した運営を行なっています。
Stitch Fix
Stitch Fixはアメリカのオンラインパーソナルスタイリングサービスを提供する会社で、AIが個人に合わせたスタイリングを提供しています。
ユーザーはアンケートで好みを答えるだけでAIがスタイリングしたアイテムを5点受け取り、気に入ったものだけを買い取るという仕組みです。
2021年9月には、新たに「Stitch Fix Freestyle」というサービスの提供を開始しました。
これは実店舗でのショッピング同様に「発見」を体験できるというものです。
アンケートの回答をもとに、デジタルショップ上にはブランドを問わずに複数の自分好みのスタイルが並び、その場で購入も可能です。
METRO
ドイツのMETROと言えば、すでに日本からは撤退してしまった卸売専門の会員制業務用スーパーです。
本国では自社アプリにバーコードスキャナSDKを搭載し、AR技術を活用した顧客ごとの価格や値引率の表示を可能にするなどリテールテックが進んでいます。
これにより、顧客は瞬時に値段の把握が可能になり、契約書を参考に自社の割引率を計算して割り出す必要がなくなりました。
顧客ロイヤリティ、満足度を大切にするMETROならではの観点と言えます。
まとめ
キャッシュレス決済やセルフレジの普及など、リテールテックが急激に拡大する現代。リテールテックは小売業に最適なソリューションをもたらすだけでなく、私たちの生活も快適にします。多くの企業がリテールテックの分野に注力するとされ、今後ますます小売業界は便利になっていくでしょう。
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