スタートアップ企業の資金調達のススメ|メリットやデメリット、事例を網羅的に紹介
スタートアップ企業とは、これまでになかった革新的なアイデアでビジネスを展開していく企業を意味します。しかし、革新的なアイデアがありながら、適切な資金調達の方法に頭を悩ませるスタートアップ企業も少なくありません。今回はそんなスタートアップ企業が理解しておくべき、資金調達の方法やメリット・デメリットを解説していきます。
目次
スタートアップ企業が行う資金調達とは
スタートアップ企業は潜在的な市場が大きい反面、安定的な収益基盤が確立されていません。
そういった中で短期間での急成長を目指すためには、外部からの資金調達が必須です。スタートアップ企業が行う資金調達についてみていきましょう。
資金調達の現状
スタートアップを支援しているフォースタートアップス株式会社が2020年1月~9月の国内スタートアップ資金調達ランキング上位20社を発表しています。そこをヒントに資金調達の現状を見てみましょう。
同社が公表しているデータによれば、上位1位と2位の企業が100億を超える大型の資金調達に成功しています。
他の18社も20億以上の資金調達に成功し、しかもトップ20のうちの10社が企業を立ち上げて5年以内ということです。
事業分野も環境・エネルギー、アプリ、自動車、決済サービスなどの金融と多種多様なことからも、突出して資金調達が集中している分野は存在せず、多くの企業にチャンスがあると考えられます。
参考:【STARTUP DB】調査結果国内スタートアップ資金調達金額ランキング|フォースタートアップス株式会社のプレスリリース
ベンチャーキャピタル(VC)からの投資額も増加傾向にある
近年スタートアップ企業に対してベンチャーキャピタル(以下VC)からの投資が増加傾向にあります。
VCとは外部から広く資金を集め、主にスタートアップ企業にファンドとして出資する投資会社のことです。
2014~19年の5年間を見てもVCからの投資件数・投資額は増加しています。2019年度の国内VC投資額が2,124億円で前年度の1,706億円と比較した場合、じつに418億円、24.5%増加しているのです。
スタートアップが成長しにくいと言われている日本ですが、状況は少しずつ改善に向かっているのかもしれません。
参考:ベンチャーキャピタル等投資動向調査(2019年度速報)|一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター
「シリーズ」や「ラウンド」について
資金調達の「シリーズ」とは
シリーズとは主にVCが投資判断する目安となる考え方です。
資金調達のシリーズは「投資ラウンド」とも表現され、両者は非常に似たような意味合いで使われます。
企業の成長過程を段階で表したもので、段階ごとにシード、アーリー、シリーズA、シリーズB、シリーズCといったものがあり、企業の成長段階に応じた投資ラウンドとして使用されます。
投資ラウンドは投資側だけでなく、企業にとっても資金調達戦略を見直すための指標になるのです。
上記の段階でも特にシリーズA~シリーズCでは、企業が本格的に事業を軌道に乗せ、黒字化や海外展開など規模拡大に伴い数千万円から億単位の資金調達を行います。
資金調達のラウンドとは
投資ラウンドを企業側から表現した場合、投資は資金調達となるため資金調達ラウンドと表現します。
これは主に5つに分類されており、投資家がラウンドごとに企業の成長過程を把握するため使用します。また投資家だけではなく、企業も自社の成長過程を把握するのに役立つのです。
以下の項目ではラウンドごとの特徴を個別に紹介します。
シード
「種」という意味の通り、まだ起業・製品リリース前の状態を指します。企業の準備段階であるため大きな資金は必要としません。しかし人件費、マーケティング調査や会社設立費用、人件費といったコストが発生するため最低限の資金調達が行われるイメージです。
資金調達額は、数百万円~1000万円ほどである場合が多いです。
アーリー
起業や製品リリース直後の状態を指します。一般的には、シードとアーリーシリーズの企業をつまりスタートアップ企業と呼びます。まだ事業が軌道に乗る前段階でありながら、経営にかかる経費も次々と発生するため、赤字であることも多い時期です。
人件費はもちろん、設備投資や製品・サービスに必要となるライセンス料、販売促進のための広告費などが業績に関係なくコストとしてのしかかってきます。
このステージの資金調達額としては、数千万円規模になってきます。
シリーズA
シリーズA(エクスパンション)の段階では徐々に事業が本格化、顧客が増え始め、商品やサービスの認知度を上げるための宣伝広告費や市場調査も必要となってきます。
資金繰りの面では、さらなる設備投資や優秀な人材の採用事業を軌道に乗せるための資金調達が必要となります。
この時期になると、資金調達の規模は数千万円程度から2~3億円規模にまでなるといわれています。
シリーズB
シリーズB(グロース)はようやく事業が軌道に乗り始めた段階です。
収益の安定化が見られ、企業には黒字化が求められるでしょう。なぜかというとこの時期には、投資資金の回収を行うエグジット(イグジット、EXIT)が近づいているためです。
エグジットとはオーナー経営者や投資ファンドが、これまで経営してきた企業を売却して利益を得ることをいいます。シリーズAの段階よりさらに設備投資や優秀な人間の登用・育成・広告費など、その資金調達規模は数億円にまで膨れ上がるステージです。
シリーズC
シリーズC(レイター)は企業が黒字化し、IPOやM&Aといったものを視野に入れる段階です。
そのためにも安定した売上げの利益確保が重要視されます。
さらに事業拡大を図るため、海外展開など考えている企業の場合は、数億円から数十億の高額な資金調達が必要となってくるでしょう。
スタートアップ企業がおこなう資金調達方法
自己資本
起業における全ての資金を自分で負担するということです。
投資を受けて設立するわけではありませんから、その後の事業展開を自由にできます。また、自己資本比率が高いと見なされ、金融機関からの借入れ審査が有利になります。
しかしそういったことが可能なのはごく一部、よほどの資産家に限られるでしょう。
銀行からの融資
法人の大型投資家である、いわゆる機関投資家の1つが銀行です。
安心して資金調達できるという点では、銀行の信頼度は高いです。
ただし創業してまもない実績の乏しいスタートアップ企業が、融資の審査を通過することは簡単ではありません。
また銀行からの融資は返済義務があり、利子を上乗せして返すことになります。
補助金・助成金
補助金・助成金は公的機関による資金提供です。返還不要であるとこが大きな特徴ですが、それだけに受給審査が厳しいです。
大きな額を受給することになれば、定期的に事業内容の報告をしなければならないケースもあります。
審査準備のための情報収集や受給準備に時間が割かれるため、少人数で活動するスタートアップ企業には負担になることもあるでしょう。
エンジェル投資家
投資家は裕福な個人が、企業の創業時に投資を行うことをいいます。
実績も乏しいスタートアップ企業にも手を差し伸べることから、エンジェル投資家と呼称されます。日本にもエンジェル投資家として有名な方は多数存在し、彼らがグループを形成して投資することもあります。
ベンチャーキャピタル
VC(ベンチャーキャピタル)はスタートアップ企業・ベンチャー企業を専門に投資を行っています。
VCは出資者を募り投資ファンドを設立し、集まったお金でスタートアップ企業・ベンチャー企業などに投資を行うのです。
日本におけるVCの多くは銀行や保険会社など機関投資家の集まりによって組成されます。
日本で代表的なVCには以下のような有名企業の名前も見受けられます。
・ジャフコ
・NTTドコモ・ベンチャーズ
・電通イノベーション・パートナーズ
・慶應イノベーション・イニシアティブ
・産業革新機構
また、VCの審査を通過して投資を受けるためには、将来的に黒字化させることが可能なしっかりとしたビジネスモデルが必要となるでしょう。
クラウドファンディング
近年、スタートアップ企業の資金調達方法として大きくクローズアップされているのが、このクラウドファンディングです。
クラウドファンディングは国内だけでなく、ネット媒体を通じて世界中にアピールし、目標設定してある金額が集まるまでアピールをし続けます。
設定した目標金額以上に集まるケースもあれば、下回るケースもあります。
寄附型、購入型、融資型、ファンド投資型、株式投資型など様々な形のクラウドファンディングがあります。
以下に日本でも代表的なクラウドファンディングサイトを紹介いたします。
・JAPANGIVING
・CAMPFIRE
・MotionGalley
・Readyfor
・Kibidango
スタートアップ企業の資金調達方法別メリット・デメリット
VC(ベンチャーキャピタル)
メリット
スタートアップ企業・ベンチャー企業向けの投資ファンドです。
VCから投資を受けることで事業が安定、活性化して金融機関からの融資を受けやすくなります。
また、資金の返済義務がなく、経営についてのアドバイスもあり事業を大きく展開したい経営者にとってはプラスでしょう。
デメリット
VCからは数千万円から数億円と高額な金額の出資が望める反面、具体的な事業戦略・展開の青写真がないスタートアップ企業には、投資を受けること自体非常に難しいといわれています。
VCは経営に対して発言することができますので、企業側にはVCとのコミュニケーション能力も問われるでしょう。
また、資金の返還義務はありませんが、VCには経営に対して意見を述べる権利があるため、経営の自由度が下がる可能性もあります。
エンジェル投資家
メリット
設立したばかりで資金繰りが難しいスタートアップ企業・ベンチャー企業に対して資金援助を行ってくれます。
またVC同様に返済期限がなく、エンジェル投資家の人脈や知識による援助があるところも魅力です。
デメリット
反社会的勢力と繋がりがあるようなダークエンジェル投資家の詐欺に合う可能性がある他、出資比率が高い場合は経営に割って入られる可能性があります。
出資比率の高いエンジェル投資家は経営に口出ししやすいため、経営の自由度が下がる恐れがあります。
助成金・補助金
メリット
国や地方自治体、商工会議所から資金調達をするメリットは金融機関の融資と違い、返済の必要がないというところでしょう。
そのためスタートアップ企業・ベンチャー企業が利用しやすいといえます。
デメリット
助成金や補助金は申請に必要な書類等を用意するのに時間がかかり、申請してからも受給が認められるまでに半年から1年がかかります。
また助成金には社会保険や雇用保険に入っていることが条件に含まれるものもあるのです。
補助金については申請期間があらかじめ設けてあり、申請から受給までには一年ほどの時間がかかるといわれています。
クラウドファンディング
メリット
主に商品を販売する事業の場合は、SNSといったネット等を通じて広く世間に共感してもらうことになるため、宣伝効果が高く一種の事前販売という形にもなります。
これは顧客の反応が把握でき、市場調査もできるというメリットがあります。
場合によってはクラウドファンディングの活動を通じて人脈が広がり、エンジェル投資家との繋がりを持つことができるかも知れません。
デメリット
クラウドファンディングの中には目標金額に達しない場合は不成立になり、資金調達が受けられないものがあるので注意する必要があります。
また、プラットフォーム企業に対する手数料を支払わなければいけません。
その他資金調達までに、時間がかかりすぎるといった懸念材料もあります。
ビジネスローン
メリット
ビジネスローンのメリットは審査が早いところです。
融資スピードが速く最短で即日、遅くとも7日~10日程度で融資が受けられるところがあります。
デメリット
ビジネスローンは借入金の上限が数百万円と少額です。
銀行などといった機関投資家相手だと中小企業向けにしても、数千万円から1億円ほど借入れが可能といわれています。
それと比較した場合、ビジネスローンで資金調達できる金額はかなり低いということになります。
また、金利の高さもビジネスローンからの資金調達には大きなデメリットとなるでしょう。
スタートアップ企業の資金調達事例
株式会社PreferredNetworksは、IoT(InternetofThings=インターネットにモノが接続される)についての深層学習技術の研究開発を行う企業です。
2007年の創業より、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を展開しています。
PreferredNetworksは2017年8月にトヨタ自動車株式会社から、約105億円の追加出資を受けることで合意しました。
これにより、トヨタとモバリティ事業分野において共同研究や開発、その他それぞれの分野において関係強化を図ることに成功しました。
資金調達だけではなく事業の繋がりを強化することができ、さらなる事業展開のステップアップになったのです。
まとめ
主にスタートアップ企業の資金調達について紹介してまいりました。
スタートアップ企業の資金調達に利用できる手段は、機関投資家と呼ばれる銀行などの、大型投資家の出資だけではありません。スタートアップ企業を含む未上場企業へ積極的に投資を行うVC、その他にも公的機関の助成金やビジネスローン、エンジェル投資家、クラウドファンディングと多種多様です。
スタートアップ企業の資金調達には、展開するビジネスモデルや自己資本などを詳細に省みる必要があります。
その上で自身の企業にあった資金調達方法を選びましょう。
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