HRテック(HR Tech)とは?7つの領域と注目企業を背景と共に解説
今やビジネスのみならず、日々の暮らしにおいてテクノロジーは必要不可欠なものです。ITを使ったさまざまなサービスが市場を広げている中で、今注目されているのが『HRテック』です。なぜ、今『HRテック』が注目されているでしょうか?その背景と、実際に使用されているサービスを解説していきます。
目次
HRテックとは
HRテックとは「Human Resources(人事)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた言葉で、テクノロジー、主にITを活用して人事領域の業務改善を図ることを指します。
従来の人事領域の業務はアナログなものが多く、最近では採用活動や人事評価だけでなく人事の業務も多様化してきています。
人事領域にITを取り入れることで、人事の業務負担の改善はもちろん今まで担当者しか分からなかった専門的分野の採用マッチングも高い精度で行うことができるようになります。
企業のDX化の促進に伴って、人材の架け橋となるHRテックが近年注目を集めています。
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HRテック市場が盛り上がる理由
HRテックが注目される前にも、それにあたるサービスやソリューションは存在していました。
その中で近年HRテック市場が盛り上がってきた理由として、世の中にはどのような変化があったのでしょうか。
少子高齢化による労働力不足
1つ目の背景として、少子高齢化による労働力不足問題があります。
企業によっては慢性的な人手不足で採用する側の人手も足りないという状況にありました。
その影響から人事の業務も多様化し、人材を増やすための採用における本質的な業務に注力できないといった悪循環が発生することもありました。
少ないマンパワーで効率的な業務遂行を図るために、テクノロジーを積極的に活用しようという表れなのです。
雇用の流動化
日本では終身雇用制度が当然な世の中でしたが、コロナ禍の影響もあり終身雇用の崩壊が加速しています。
現在は転職や副業を考える人が増え、欧米型の成果主義制度を導入する企業も増えてきました。
そのため優秀な人材ほど個人のスキルを高めるために会社を渡り歩き、人手不足にあえぐ企業はいかに他に先んじて優秀な人材を獲得するか、という競争を余儀なくされています。
結果として、人事が採用活動に割かなければならない時間が増え、人事の業務負担につながってしまうのです。
こうした採用市場の現状も、テクノロジーを駆使して人事の業務効率化を図るべきという動きが活発になった要因の1つでしょう。
働き方の多様化
終身雇用の崩壊に伴い、フリーランスや時短勤務など個々に合わせた働き方を選択する人も増えてきました。
IT系の企業では元から取り入れていた企業も多いリモートワークも、新型コロナウイルスの感染拡大によって今まで実施をしていなかった業界・業種でも多く導入されることとなりましたね。
そんな働き方の多様化によって一人ひとりの適切な人事評価がより求められるようになり、正確で可視化しやすいようにテクノロジーを活用するという動きが活性化されたのです。
IT技術の進化
IT技術の進化もHRテック市場を盛り上げる重要な要因です。
今までもHRテックのようなシステムを導入しようというような動きはありました。
しかしそのためにはそれぞれの企業に合ったシステムを設計し開発を行うエンジニアが自社で必要となり、莫大な時間とコストがかかってしまっていたのです。
そこでクラウド技術が普及されるようになったことで、比較的ローコストでシステムを導入でき自社にエンジニアがいない中小企業でも導入されるようになりました。
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HRテックに活用される先端テクノロジー
HRテックには様々な技術が活用されています。HRテックを導入するうえでも、それぞれの分野の役割を理解しておきましょう。
クラウド
クラウドとは、パソコンへソフトウェアのインストールをしなくても、インターネットを通じてサ-ビスを利用できる技術のことです。
大量の人材データをクラウド上で管理することによって、場所を選ばずに様々なデバイスからアクセスできるようになり業務効率化に繋がります。
直近ではリモートワークが主流になってきていることも、需要の拡大を後押ししました。
AI(人工知能)
AIは主に人材データの解析や採用のミスマッチ防止に用いられています。
従来は全て手動で行っていた業務を自動化することで、効率化だけでなくミスの低減にも繋がります。
人の手では分からないような精密な解析や対策が可能になりました。
ビッグデータ
人事領域には従業員全員のプロフィールから人事評価、勤怠情報など膨大なデータが保有されています。
それらのデータを解析することで従業員の生産性向上を図ったり、退職予測が可能になりました。
HRテックでの解析精度を上げるために、ビッグデータは必要不可欠なのです。
SaaS
クラウド技術の発展により、ソフトウェアを使用するために社内のサーバーに一度インストールする必要がなくなりました。
SaaS(Software as a Service)技術のおかげで、社内でサーバーの容量を気にせずにソフトウェアを使用できるようになり、ネット環境さえあればどこからでもソフトウェアにアクセスができるようになりました。
同じ会社で同じソフトウェアを共有できるようになった事は、HRテックの普及を大きく手助けしたと言えるでしょう。
RPA
RPA(Robotic Process Automation)は、ソフトウェアが設定されたプロセスを順番どおりに実行する技術です。
勤務時間の集計、給与計算、各種データ入力といった作業で活用されています。
人が行うと負担が大きい業務を効率化するこの技術は、導入・普及はさらに広まるでしょう。
HRテックのメリットとテーマ
HRテックの導入によって、上記でも説明したような様々な課題が解決されていきます。
そんなHRテックのメリットと、HRテックが取り組む6つのテーマについてご紹介します。
人事業務のデータ化・一元管理
一つ目の取り組みとして人事関連情報のデータ化、それらの一元管理があります。
社員一人にしても経歴から過去の人事評価、給与に関するデータなど多くの情報が存在します。
今までアナログ的に扱っていた社員1人1人の情報をデータ化し一元管理することで、あらゆる情報の参照や連携がスムーズに行えるのです。
人材管理を一元して行い、人事データをまとめて可視化することで、より業務の効率性向上を目指します。
採用業務の効率化
労働力不足の問題の際にご説明したように、従来は人手不足で採用業務に注力できないといった課題がありました。
HRテックを導入すれば、時間と場所を選ぶ必要のあった面接がオンラインで完結し、録画面接という形式では数人の面接官がいつでも候補者を確認できるようになります。
面接スケジュールや採用候補者との連絡管理もシステム化するため、採用業務にかける時間を減らすことができ、より多くの候補者との面接が可能になるのです。
ミスマッチの防止
自社の社員をまとめたデータを基に採用活動を行うことで、技術の観点だけではなく社風マッチという点でもミスマッチを防ぐことが出来ます。
自社の社員は何を目標に仕事をしているのか、どのような仕事の進め方をするのかなどをデータ化し分析することが可能になるため、企業にとっても求職者にとっても最適なマッチングを行なっていきます。
データを基にした組織マネジメント
人事業務のデータ化によって、人事評価もそのデータ分析を用いて行えるようになります。
リモートワークが主流となった今、1人1人の勤怠管理や業務管理が目に見えづらくなってしまいました。
そこでデータを用いることで客観的に適切な人事評価ができるようになり、働き方の多様化が広がっても正確な組織マネジメントが可能になります。
離職率の低減
採用のミスマッチ防止や適正な組織マネジメントは、結果的に離職率の低減につながります。
HRテックは過去の離職理由から勤務体制を変えた様々なシミュレーションも可能になり、離職の原因を解消するための施策を試すことができます。
採用の段階から不満が生まれることを防ぐことができるでしょう。
人材育成
研修や引き継ぎにHRテックを導入することで、誰でも簡単にノウハウを共有することができ社内教育が効率化されます。
また、社員のモチベーションやパフォーマンスを計測できるようになるので、適材適所での人材育成を目指しています。
HRテックの代表的な7つの領域とは?注目企業とサービス事例
HRテックを活用した事例とともに、それぞれの分野についてご紹介していきます。
まずは2023年版カオスマップの分類から解説します。
HRテックカオスマップ最新2023の12分類
2023年版のカオスマップによると、HRテックは次の12に分類されています。
- ・労務管理(総合/勤怠管理/経費管理/給与管理/その他)
- ・育成管理(内定者研修/マネージャー研修/オンライン研修)
- ・採用(新卒採用/中途採用/面接/サイト作成/代行/広報/コンサルティング/マーケティング/適性検査/バックグラウンドチェック/リファラル採用/アルバイト/その他)
- ・組織開発
- ・エンゲージメント(総合/社内コミュニケーション/日報管理/ウェルネス/人材開発/オンボーディング/その他)
- ・求人(新卒採用/転職/中途採用/リファラル採用/アルバイト/ダイレクトリクルーティング/フリーランス/副業/人材マッチング/エンジニア/業界特化/ビジネスSNS/オンデマンドワーク/その他)
- ・タレントマネジメント(目標管理/モチベーション管理/人事評価/タレントプール/人材管理)
- ・マイナンバー
- ・アウトソーシング
- ・アルムナイ
- ・Web会議
- ・チャットボット
それではこのうち注目の7分野について、代表的な企業と具体的なサービス事例を見て行きましょう。
採用
HRテックサービスの代表的な分野に採用管理システムがあります。管理だけでなく効率的な人材採用にあたってのマッチングまで様々なサービスが展開されています。
ジョブカン採用管理(株式会社DONUTS)
採用サービスの一つである「ジョブカン採用管理」は、求人ページの作成から候補者管理、分析まで豊富な機能が備わっており、応募ルートごとの選考通過率や内定率も表示してくれます。
一貫することで漏れなく効率の良い採用活動を行うことができるでしょう。
キャリトレ(株式会社ビズリーチ)
ビズリーチ社が提供する採用マッチングサービスの「キャリトレ」では、求職者の職務経歴書や活動データから求人に合う求職者を自動で選出してくれます。
求職者がどのような求人に興味があるのかの分析も可能です。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、社員それぞれのスキルデータを分析することで客観的な評価を行い管理することです。戦略的な人材配置や人材育成が可能になります。
タレントパレット(株式会社プラスアルファ・コンサルティング)
「タレントパレット」というサービスは、人材データの管理はもちろん研修やeラーニングの管理機能も充実したタレントマネジメントシステムです。
スキルだけでなく社員のモチベーションやエンゲージメントを把握することもできるため、いち早く社員の変化に気付きフォローすることが可能になります。
勤怠管理
社員の勤怠管理においても、リモートワークや時差出勤が増えた現在、正確な勤怠データの管理が課題としてあがってきています。
サービスを取り入れることでリモートワークでも正確な時間管理ができるようになるので、これからの時代多方面で益々必要とされていくでしょう。
ジョブカン勤怠管理(株式会社DONUTS)
「ジョブカン勤怠管理」はICカードやGPS、スマートフォンなど多様なデバイスで手軽に打刻ができる勤怠管理システムです。
シンプルな操作性であらゆる勤務形態に対応しているため、わかりやすく誰でも簡単に使うことができ人事の負担も減らすことができます。
労務管理
社員が多いほど大変な、社会保険や福利厚生の加入、年末調整の手続きといった労務管理。
これまで手続き書類を社員一人ひとりに紙で作成していたことも多く、それらをシステム化することでミスをなくし業務負担が大幅に軽減されます。
SmartHR(株式会社SmartHR)
「SmartHR」は、そんな業務効率化を実現し生産性向上を支えるクラウド人事労務ソフトです。入退社手続きから給与明細、年末調整まで紙にすることなくオンライン上で完結します。
様々なサービスとも連携しているので、SmartHRひとつで人事・労務業務を効率化することができます。
給与管理
労務管理と少し重複しますが、HRテックによって給与管理もスムーズになります。
企業規模・自社の体制・勤務形態によっておススメのサービスが変わってくるので、比較しつつ自社に合ったシステムを取り入れましょう。
COMPANY(株式会社Works Human Intelligence)
代表的な給与管理サービスの一つである「COMPANY」は賞与計算や退職金のシミュレーションも行うことができ、雇用形態の多様化にも対応が可能なため大企業で多く導入されています。
健康管理
コロナ禍の影響でリモートワークも浸透して直接顔が見えない分、今まで以上に健康管理に力を入れる企業が増えました。
出社をしている人でも、ちょっとした体調の不調に敏感になっている現代、健康管理は何より大事な分野となっています。
Carely(株式会社iCARE)
「Carely」は健康診断の予約やストレスチェック、長時間労働対策といった健康管理をクラウドで完結させる健康管理システムです。
「人事担当者が選ぶNo.1健康管理システム」とも言われ、多くの企業で導入されています。
育成管理
HR領域におけるテクノロジーの活用によって、人事業務の効率化のみでなく育成も管理が進んでいます。
特にオンライン研修の領域でサービスが活発化している注目分野です。
株式会社グロービス
株式会社グロービスは各種講座を定額、時間無制限で視聴できるサービス「GLOBIS学び放題」を提供します。講座が3~7分程度にまとめられた200以上の動画が視聴できるとあり、ビジネスマンの学習ツールとして定番となりつつあります。
内定者・新入社員向けに特化した「GLOBIS学び放題フレッシャーズ」が2023年9月より一本化され、よりコンテンツが拡充される予定です。
HRテックの導入手順
まずは導入目的を明確にしましょう。
解決したい課題を洗い出し、適したサービスを選ぶ必要があるからです。
数年間のロードマップを作成する方法も有効です。
実際に導入したあとは、効果測定や見直しを必ず行います。
業務の効率化が目的ですので、ツールのカスタマイズや変更も都度検討してください。
HRテック導入の成功事例
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社は、「母集団形成から『攻めの採用』へのシフト」をきっかけとし人材採用の効率化を目的としたHRテック導入を行いました。
年間3万人と言われる応募者のなかで、同社が本当に採用したいトップ人材にアプローチするために始めたのがAIの活用です。
具体的な成功事例は、エントリーシートの分析に使っていた時間の75%削減が挙げられます。
このエントリーシートの自動化をはじめとしたHRテックの活用は、今後も積極的に進められていくようです。
株式会社サイバーエージェント
サイバーエージェントはHRテックの取り組みを2013年より開始しています。
「人材化学センター」と呼ばれる、人事部のなかでもデータ分析を専門とする部署が新設されました。
ここでは従業員のデータを取り扱い、全社員に向けたアンケート「GEPPO」によって適材適所の徹底を実現しています。
大量のデータを分析していくという手法ではなく、まずデータを精査して正確な情報として見える化するというアプローチが特徴です。
今後もこの独自のシステムに基づいた採用のPDCAを回していくとされています。
株式会社日立製作所
日立製作所では、応募者・採用者ともにタイプの偏りがある点を問題視したことがきっかけでHRテックの導入に踏み切りました。
これは会社が価値観を重視して採用を続けた結果だとされています。
そこで同社は、従業員の性格や適性の分析、インタビューなどを通し選考プロセスや合否基準などを新たに作り直しました。
また、テキストマイニングの技術を活用し自己PRに含まれる単語の分析などを行ったり、採用後の配属と生産性の関係を調べるサーベイツールを独自に開発するなどHRテックに積極的です。
NTT東日本
NTT東日本が導入しているのは、「Orihime(オリヒメ)」と呼ばれる人型ロボットです。
その背景には在宅勤務の導入が推進したことによるコミュニケーション不足がありました。
同社は社内に表情・感情・動きを認識させた本人類似のロボットを常駐させ、会議や商談などを行うことで問題点を解消する実証実験を行っています。
株式会社フジクラ
株式会社フジクラでは2011年に健康経営の専門組織「ヘルスケア・ソリューショングループ」を立ち上げています。
2013年に開始した「フジクラグループ健康増進プログラム」では、1ヶ月で100万件を超えるデータを収集し、それを分析することで課題を抽出しました。
それによって個別の健康増進コンテンツの企画を実現し、さらに生産性の変化もKPIを設けて段階的に評価を行うことで成果をあげている企業です。
HRテック業界の市場規模と動向
HRテックの市場規模は年々広がりを見せており、年平均成長率31.5%で継続する見込みです。
ミック経済研究所の調査によると2021年度のHRTechクラウド市場の見込みは587.7億円で、前年度比32.4%増となっています。
また、年平均29.3%増で成長し2027年度には2,880憶円の市場規模にまで成長すると同社は予測しています。
(参考:日本経済新聞)
働き方の多様化や新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、今後日本国内でもますますHRテック市場は盛り上がりをみせるでしょう。
今後注目のトレンド
テレワークの普及により、マルチデバイスへの対応は急速に進みました。
今後はテレワークに関して、定着する企業と廃止に向かう企業に二分化するとの予測もあります。
そのため、多様な働き方に臨機応変に対応できるHRテックが求められるようになるでしょう。
経済団体連合会(経団連)は今後、従来の新卒一括採用に加えて新卒者の通年採用を拡大していく方針を示しています。
この背景にあるのは人材確保の激化や企業のグローバル化です。
HRテックのようなシステムは、企業にとって複雑化する採用の助けとなるはずです。
RPAによる人事・労務に関する定型業務の自動化もますます進み、HRテック市場の拡大を後押しすると考えられます。
まとめ
『HRテック』は様々なサービスが普及し注目されているものの、現場へ十分に浸透していないのが現状です。
しかし、慢性的な人手不足や働き方が多様化している現代で、人事領域においての業務改善は必須です。企業や組織の発展のためにも、積極的に『HRテック』を導入してはいかがでしょうか。
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