インクルーシブデザインとは?意味や原則を解説!多様性に寄り添うデザインを知りデザイナー転職に活かそう
技術の進歩により身の回りには便利なものが沢山あります。しかし「便利」は、誰の視点に立った「便利」なのでしょうか。より多くの人の「便利」「使いやすい」に貢献するのが「インクルーシブデザイン」です。インクルーシブデザインの概要や特徴、活用事例を幅広くご紹介します。
目次
インクルーシブデザインとは?
ターゲットから外されていた人々もデザインの対象に
インクルーシブデザインとは、これまでサービス開発や商品のターゲットから外れていた人々を巻き込み、一緒に考え作り上げるというデザインプロセスです。
インクルーシブとは、排除(Exclude)の対義語であるInclude(含める)が語源です。
身近にも存在するインクルーシブデザイン
近しいところで例えると、「包丁は右利きの人が切りやすい刃の向き」になっていました。そのため「切りにくい」という感想を多くの左利きの人が抱いていたのです。
20〜30年ほど前までは左利きは矯正して右利きに直されることが多かったため、そこまで違和感はなかったかもしれません。しかし、左利きの人が矯正せずに普通に暮らしている近年、「切りにくい」「使いにくい」といった声が多く上がったのでしょう。
様々なメーカーの包丁が、右利きの人も左利きの人も使いやすい刃の向きになっています。
これは「右利きの人だけでなく、左利きの人も使いやすい」といったインクルーシブデザインといえるでしょう。使いやすさや便利さというのは誰もが求めるものです。しかし、どうしても利便性を享受できない層がいました。
このもどかしい状況をデザインの力で打開するインクルーシブデザインは、これからの時代をよりよいものにしていくことでしょう。
インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い
似て非なる「ユニバーサルデザイン」との違い
インクルーシブデザインと似て非なるものとして「ユニバーサルデザイン」があります。
ユニバーサルデザインは、最初からあらゆる人が使うことを想定したデザインのことです。
建築などの空間デザインや、グローバルに展開する際によく用いられています。
デザインプロセス・思考の違い
インクルーシブデザインと異なるのは、できるだけ多くの人が利用できることを想定して作り上げるデザインであるということです。
対して、インクルーシブデザインはひとりでも利用できない人がいる場合、改善を繰り返して作り上げていきます。そのため、絶えず進化し続けるデザインです。常に改善を続けることで、あらゆるユーザーが利用できるように変えていきます。
また規模も異なります。
ユニバーサルデザインは「大衆」にむけたものといえるでしょう。
インクルーシブデザインは包括と排他の境界がなくなるように改善され続けていくデザイン思考のため、「大衆」もあれば「ニッチ」である場合のどちらもあります。
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排他的なエクスクルーシブデザインとは?
エクスクルーシブデザイン
インクルーシブデザインに似ているものとしてユニバーサルデザインを紹介しましたが、対立する手法も存在します。
それがエクスクルーシブ(排他的)デザインです。
「大多数のターゲットを除外する」デザイン手法です。会員制の飲食店といったサービスが当てはまります。
排他的であることが必ずしも悪いこととは限りません。それを求めるユーザーがいて、それを提供する企業がいれば需給バランスが保たれます。
ただし、多くのユーザーがそのサービスを求め始めたら、インクルーシブデザインを考える転機なのかもしれません。
必要な人に必要なサービスや物が届くこと。それを重視したデザインであればインクルーシブのエクスクルーシブも素晴らしい概念です。
デザインによる排他
どんなデザインだと排他的になってしまうのでしょうか。
インクルーシブデザインを行うには、「排他的になってしまうポイントを理解する」ことが大切です。
そのポイントは、以下の6つです。
・身体
・感覚
・知覚
・デジタル化による排除
・感情
・経済
日頃健常者は意識していないかもしれませんが、我々の日常生活には多くの排他的ポイントが潜んでいます。
身体の排他的ポイントだとわかりやすいかもしれません。
例えば目が悪く、常日頃から杖を持って歩いているとしましょう。私たちにとってはありふれた普通の道であっても、目が悪い人にとってはそうとは限りません。点字ブロックがないと一苦労したり、横断歩道も音声がないと判断がしにくいはずです。このようにたくさんの「排他的ポイント」が日常には潜んでいます。
まずは排他的になってしまうことが多くあるのだと意識するところから始めましょう。
日常に寄り添うインクルーシブデザイン
わたしたちの日常には、いくつものインクルーシブデザインが寄り添っています。
実例を交えながら「特別なことではないデザイン手法」だということをお伝えできればと思います。
ライター
今や当たり前のように多くの人が利用している「ライター」。
昔は今のように片手で簡単に火をつけられるものではなく、両手でようやくつけられる使いづらい製品でした。そのためライターが生まれても多くの人がマッチを利用していたそうです。
そんな中、戦争で片腕をなくした兵士がいました。ライターもマッチも片手ではつけられない、そんな時に「片手でも火をつけられるライター」が生まれたそうです。
そのおかげで、現在は多くの人が便利にライターを利用することができています。
ストロー
飲食店にいくと、ドリンクを注文すれば一緒についてくるストロー。ストローの生まれた背景もインクルーシブデザインなのです。
ストローの発明者は全身が動かしにくい人でした。そのため手で持とうとしても、口でくわえようとしてもコップを持つことは難しく、一人では飲み物を飲むのも一苦労だったそうです。
そこで手を使わなくても吸えば飲むことのできるストローが生まれました。
ATM
ATMも目が見えにくい人からすると、使い勝手の悪いサービスでした。数字を押したくてもボタンは画面上にあり、どの数字がどこかわかりません。
そこでインクルーシブデザインの成功例として名前が上がるのが、セブンATMです。音声ガイダンスでの案内やテンキー式のボタンで、画面を触らなくても入力することができます。
デザインプロセスには、ATM利用者へのアンケートや各金融機関のATM調査があったそうです。
ファッション
わたしたちが日常的に当たり前に着ている洋服ですが、障がいのある方からすると悩みがつきもののようです。
例えば車椅子を使っている女性。なかなか満足いくスカートに出会ったことがありません。
「風が吹くとめくれてしまうから」「着脱がしにくいから」「座ると丈が短くなってしまうから」など、理由は1つではなく多岐に渡ります。そんな中、車椅子ユーザーが使っても違和感なく、健常者も使えるというスカートが開発されました。
障がい者の声を反映して製品は作られましたが「障がい者のため」ではなく、「健常者も障がい者も使える」インクルーシブなスカートが開発されたのです。
インクルーシブデザインのアプローチ方法
ユーザー参加・巻き込み型のデザイン
インクルーシブデザインを行ううえで大切なことは、デザインの上流工程から巻き込み、一緒に考えることで多種多様な人に寄り添ったサービスなどを作っていくことです。
今までデザインのメインターゲットとされなかった高齢者・子どもや、障がい者を巻き込んで進めていきます。この方々をリードユーザーといいます。
多様なユーザーと行動を共にして、ワークショップやグループワークでコミュニケーションを取りながら、アイディアを出し話し合う。
これによって「デザイナーだけ」「ユーザーだけ」では気づけなかった課題を発見します。
そうすることでデザイン提案に生かしていくのです。
インクルーシブデザインの注意点
インクルーシブデザインを行う上で注意点もあります。それは「リードユーザーのいうことをそのまま採用してはいけない」ということです。
なぜなら開発するサービスや製品は、リードユーザーのためだけにあるものではないからです。リードユーザーからの意見は、あくまで自分たちで気づけなかった課題を発見したり、新たな視点から意見をもらうという役割です。そのためどういった塩梅でサービスや製品に反映させるかは、デザイナーの仕事となってきます。
インクルーシブデザインのプロセスの中ででてきた意見は、開発しているサービスや製品の目的にあわせたり、他の要素とのバランスを鑑みて反映させていきましょう。
インクルーシブデザインを仕事に活かすには
インクルーシブデザインは、Webデザイナーやグラフィックデザイナーといったデザイナーの種類・役職ではありません。
あくまでも「デザインプロセス」です。いままでデザイン対象のメインとされていなかった人々も主役に据えようという試みといえます。デザイナーとして「インクルーシブデザイン」というテーマについて理解や知識・経験がなければ、デザイン提案は難易度が高いでしょう。
このように「デザイン」の仕事では、従来のやり方にこだわらず常に新しい領域のリサーチ活動が大切になります。それを活かすことによって、様々な人々の共感を得ることができます。
まとめ
ストローやライターなど、わたしたちの身の回りにあるインクルーシブデザインが社会に寄り添っていることが分かります。ただ、どんなプロダクトにおいても排除されてしまうユーザーは1組とは限りません。インクルーシブな視点によるデザイン提案によって、何組でも排除されていたユーザーをすくいあげることができます。
「昔からある形が正解」ではありません。より良くなっていくことを、ユーザーや社会は求めています。
デザイナーとして転職するときに必ずしもインクルーシブデザインができる必要はないかもしれません。しかし、どんなプロダクトや事業・サービスに関わっていても、課題をみつけて改善のサイクルを回していく必要が生まれるのではないでしょうか。
その際にインクルーシブデザインの視点から提案ができるような人材は、今後の社会で求められる人材といえるでしょう。
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