移動の概念が変わる「MaaS」とは?事例を含めて分かりやすく解説
移動の概念が変わるとして注目されているMaaSですが、MaaSとはそもそも何なのでしょうか。ここではそんなMaaSについて、MaaSが何なのか、なぜ注目されているのかについて、国内外の合計10個の事例を読み解きながら解説していきます。この記事を読んでこれからの移動を変革していくMaaSの基本を押さえましょう。
目次
MaaS(マース)とは
MaaS(マース)とは「Mobility as a Service」の略称です。
今までは出発地から目的地まで複数の交通手段を利用する際に、それぞれ個別で予約などを行なっていました。それを1人1人に最適な移動ルートの検索、予約、決済まで全て一括して行うサービスがMaaSです。
2015年に開催されたITS世界会議で設立したMaaSAllianceでは、MaaSを下記のように定義しています。
「MaaSは、いろいろな種類の交通サービスを、需要に応じて利用できる一つの移動サービスに統合することである」
MaaSによって移動の利便性向上や産業の活性化が期待できるため、今後もますます注目されていくことでしょう。
MaaSの歴史
MaaSはフィンランドが起源で広まっていきました。
フィンランドには自家用車メーカーがなく、車を購入するには国外で購入しなければならない状態でした。そのため、町の交通機関を利用してもらうことでお金の使い道を国内に転換することを目的にMaaS事業がはじまったのです。
2016年にはMaaS Global社が本格的なMaaSプラットフォームである「Whim(ウィム)」を提供。「Whim」は1つのアプリでバスや電車、タクシー、レンタカーなど最適な移動手段を利用することができる月額定額制のサービスです。
フィンランドだけでなくベルギーやイギリスなどでもサービスを提供をし始め、MaaSは世界各国で発展するようになりました。
MaaSのレベルと分類
5段階のMaaSレベル
MaaSレベルはレベル0からレベル4までの5段階に分かれています。
レベル0がタクシーやバス、鉄道などの各種移動手段が個別にサービスを提供している、現在の交通システムの状態です。
レベル1【情報の統合】では乗り換え案内にもあるように、各種移動手段を一括して情報提供しています。
レベル2【予約、決済の統合】からは目的地までの移動手段を一括予約、発券できるようになります。
レベル3【サービス提供の統合】になると、事業者間の連携によって移動手段に関わらず料金が統一され、乗り放題サービスの利用も可能です。
レベル4【政策の統合】が最終段階で、ここでは行政が都市計画の中にMaaSを組み込んでいきます。
日本のMaaSレベル
2022年現在、日本では「レベル1」の段階にあり、一部では「レベル2」や「レベル3」の段階まで取り組んでいる状況です。
例えば、乗り換え案内サービスやマップアプリによる経路案内は「レベル1」にあたるので、ここは実現できていると言えるでしょう。
しかし、経路案内によって提案された交通機関に対してそれぞれのサイトやアプリに移行して利用するため、予約や決済までが1つのプラットフォームで完結する「レベル2」の段階ではない地域がほとんどなのです。
MaaSの3分類
MaaSは先ほど紹介したものとは別に3種類に分類されています。
地方向けMaaS
地方向けMaaSではクルマ社会化が進む中で、マイカーを所有していない人の交通の便を保証する役割を担います。
人口減少が進み、クルマ社会化が進む中で地方における交通手段は再編を余儀なくされています。
そのような状況の中でも交通手段を効率よく組み合わせ、需要減に歯止めをかけることを期待されているのが地方向けMaaSです。
都市向けMaaS
都市向けMaaSでは利用者のキャパシティーがオーバーになりやすい都市ならではの交通課題を解決することに重点が置かれています。
例えば慢性化している交通渋滞や満員電車などが該当します。
このような場合においてはトータルで見て輸送効率の低いマイカーを如何に減らすかがポイントです。
そこで、都市向けMaaSでは効率のいい移動手段を総合的に提案し、脱まいかーと快適な移動を達成します。
観光地向けMaaS
観光地向けMaaSでは観光施設の営業時間と連動した交通手段の提案はもちろん、交通手段からさらには観光施設の入場料まで一括で手配することを目指します。
これにより、観光地の満足度を高めていく狙いもあります。
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日本ではスマートモビリティチャレンジがスタート
先ほど日本のMaaSレベルがまだ1であると解説しましたが、実は日本版MaaSの実現に向けて、国土交通省と経済産業省は2019年に「スマートモビリティチャレンジ」というプロジェクトを開始しています。
これは地域モビリティの維持・強化、さらには移動課題の解決、地域経済の活性化を目的としたものです。
また「スマートモビリティチャレンジ推進協議会」を立ち上げ、地域ごとにシンポジウムを開催するなどの取り組みを実施中です。
20の都道府県で、100以上の自治体と300を超える団体がこの協会に参加しています。(2022年4月現在)
参考:国土交通大臣『日本版MaaSの推進』
CASEとの違い
MaaSの関連キーワードとしてよく出て来るのがCASEです。
CASEは2016年にメルセデス・ベンツが中長期戦略として発表したもので、従来の移動手段としての車の役割からの発展を目指しています。
これには次の4つの構成要素が示されています。
- ・Connected(通信機能)
- ・Autonomous(自動運転)
- ・Shared & Services(カーシェアリングとサービス)
- ・Electric(電動化)
MaaSとCASEの違いは、軸となる移動手段です。
自動車を軸にしているCASEに対し、MaaSは自動車はもちろん鉄道・バス・タクシーなどあらゆる移動手段を次世代モビリティと捉えています。
異なるものではありながら、CASEの実現はMaaSが実現するためにも重要で非常に関連性が高いと言えます。
他クラウドサービスとの共通点と違い
MaaSと似た言葉としてSaaS・PaaS・IaaSなども聞かれます。
SaaS(サース)は「Software as a Service」でソフトウェアサービスを指します。
PaaS(パース)は「Platform as a Service」でプラットフォームサービスを指します。
IaaS(イアース)は「Infrastructure as a Service」で情報システムを支えるインフラサービスを指します。
それぞれ全く異なるサービスを指していますが、共通点は「aaS」が付いている事で、これは「as a Service」=「サービスとしての〇〇」を意味しています。
また、これら全てのサービスはインターネットのクラウド環境において成立するという点も共通の特徴です。
MaaSのメリット
MaaSのメリットは主に下記の5点挙げられます。
移動の利便性向上
MaaSが普及すると、ありとあらゆる交通手段を一括してシームレスに利用できます。そのため、個別でそれぞれ手配するのに比べれば交通手段の利用が簡単になります。
移動の効率化を高められることで、コストを抑えた移動にも繋がります。
渋滞の解消
交通渋滞が発生する原因が自家用車の使用率にあるのであれば、如何に公共交通機関に切り替えてもらうかがポイントです。
そこでMaaSを普及することで、リアルタイムの交通データを取得し公共の交通手段を効率よく利用できるよため、自家用車の使用を抑制することも可能になります。
そのため、特に自家用車以外の交通機関が充実している都市部では渋滞の解消にもつながります。
環境問題への対策
上記のように主に都市部で自家用車の利用が減り渋滞も軽減することで、CO2排出量も削減されます。
また、環境汚染の軽減につながるだけでなく駐車場の面積を減らすこともできるようになれば、緑地などを増やしていくこともできるのです。
MaaSはそのような環境問題への対策にも効果が期待できるでしょう。
地方や高齢者の交通手段の確保
人口減少や担い手不足によって地方では交通手段の不足が課題になっています。
そのような中で、MaaSを導入することでそんな地方でも交通手段を効率よく利用できるようになり、運転する必要も少なくなります。
このように、MaaSは地方で不足しがちな交通手段を効率よく利用できるようにすることで、地方の活性化という役割も果たせるのです。
そして、自動車免許を返納した高齢者や足の悪い人でもタクシーなどを活用することでスムーズな移動が可能になります。
産業の活性化
MaaSが導入され、移動に関するデータが蓄積されると交通以外の産業でも応用可能です。
例えばMaaSで蓄積された移動のデータをもとにショッピングや住まいなどの提案にも活かすことが可能です。
このように、MaaSで蓄積されたデータ分析によって周辺産業も活性化します。
また、公共交通機関への切り替えが促進され、結果として公共交通事業者の業績アップにもつながります。
海外のMaaSの事例5選
まずは海外のMaaSの事例について見ていきましょう。
ここでは5か国・地域の事例について紹介していきます。
フィンランド:MaaS Globalの「Whim」
フィンランドの首都ヘルシンキではMaaS Global社によって「Whim」というMaaSが導入されています。
これはヘルシンキ市内の全ての公共交通機関が定額で乗り放題になるサービスです。
導入される2016年までは公共交通機関の利用率は5割にも満たなかったのですが、導入されてからは7割まで伸びました。
アメリカ:ウーバー・テクノロジーズ社の「Uber」
自動車社会と言われるアメリカでは「Uber」によってライドシェアを中核としたMaaSがヒットしています。
隙間時間にタクシーのようなサービスを提供したいドライバーと、効率のいい移動を求めるユーザーを「Uber」がつないでいます。
また、決済もアプリ内で完結することも好評です。
「DB Navigator」はドイツ鉄道が提供しているMaaSです。
このサービスでは経路検索はもちろん、特急(Intercity)や高速列車(ICE)など各種別の列車まで一括予約・購入できます。
また、何らかのトラブルで運行が見合わせになった際には代替手段も提案するため、万が一のときにも役立ちます。
スイス:スイス連邦鉄道の「SBB Mobile」
「SBB Mobile」はスイス連邦鉄道が提供しているMaaSです。
先ほど紹介した「DB Navigator」のように、経路検索から乗車券の一括購入まで可能です。
また、「SBB Mobile」で購入した乗車券はそのままeチケットとして利用できます。
台湾:高雄市交通局の「Men-GO」
台湾南部の高雄市では自動車事故の減少と公共交通機関の利用促進を狙い、台湾の交通部(国交省に相当)と連携してMaaS事業に踏み切りました。
その結果考案されたのが「Men-GO」です。
「Men-GO」では市内の公共交通機関はもちろん、タクシーやレンタルサイクル、自転車など、ほぼ全ての移動手段が定額で乗り放題になります。
国内のMaaSの事例5選
続いて国内のMaaSの事例について見ていきましょう。
ここでは主に5つの事例を取り上げて紹介していきます。
トヨタ自動車の「e-Palette」
「e-Palette」はトヨタ自動車が生み出したMaaS専用の電動自動車です。
「e-Palette」は日々の移動はもちろんのこと、物流、物販など多目的に利用できるのがセールスポイントです。
株式会社KINTOの「KINTO」
購入でもシェアでもない新しいクルマの持ち方を宣伝文句にしている「KINTO」はトヨタのグループ会社である株式会社KINTOによって運営されています。
「KINTO」では新車の使用権がサブスクリプション方式で付与され、好きなタイミングで好きなだけ新車を使うことができます。
小田急電鉄の「小田急MaaS」
公共交通機関を中核としたMaaSの中心を担っているのが小田急電鉄です。
「小田急MaaS」と呼ばれるMaaSは共通基盤として利用されており、MaaS Japanとも呼ばれています。
「小田急MaaS」には他にJR九州や日本航空なども参入しており、交通手段の提案から決済、さらには観光情報などのカバーなども目指しています。
株式会社Luupの「Luup」
「Luup」は電動キックボードや電気アシスト自転車のシェアリングサービスを提供しています。
電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを通じ、好きなタイミングでより気軽に移動できるよう、マイクロモビリティを中核としたMaaSを提供しています。
GO株式会社(旧:株式会社Mobility Technologies)の「mov」
タクシーを中核としたMaaSを担っているのがタクシーアプリでお馴染みの「mov」です。
ただし、2020年9月からはJapan Taxiと合併して「GO」という名称に変わっています。
MaaSの今後と課題
様々な実証実験が行われているうちの一つとして、自動運転もMaaSの普及に重要な鍵となります。
MaaSに自動運転技術も活用することで少子高齢化によるタクシーやバスの運転手の人手不足にも対応できるようになります。
そんな魅力の多いMaaSですが、現実に実現させようとすると課題は依然として多いです。
運賃の改定や地方でのニーズの減退など様々ありますが、特に日本では法律が壁になっています。
日本の法律では、
・バスは届け出たルート以外を運行してはいけない
・乗り合いタクシーが認められていない
など、ハードルが高いのが現状です。
加えて、MaaSを見据えて運賃を変更しようとしても、それには国交省の承認が必要となり、決して簡単なことではありません。
そのため、MaaSを普及させるには最低限、法律の壁を乗り越える必要があります。
日本国内の市場規模と将来性
まだMaaSの普及に対して多くの課題が残っているのが日本の現状です。
ですが、そんな現状打破に向けて各地で実証実験が進められています。まだ新しいMaaSの概念もこれからの生活様式などによってどんどん変わっていくことでしょう。
実際、国土交通省はMaaS市場規模の急速な拡大を見込んでいます。
その市場規模は2030年には約6兆円、2050年までには世界市場が約900兆円にまで拡大するとの調査結果もあるとしているのです。
根拠として挙げられているのは、例えばスマートシティの急速な整備、シェアリングエコノミーの成長、ドローンの活用拡大、インフラ分野のAI研究開発としています。
参考:国土交通省『国土交通白書 2020』
まとめ
今回はMaaSについて、概要から国内外の事例について紹介してきました。
MaaSはまだ普及途上ではありますが、レベルアップするごとに移動は飛躍的に便利になり、暮らしも豊かになっていくことが予想されます。
普及させるには法律などの壁を乗り越える必要がありますが、それでも将来性はあるといえるでしょう。
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