【あなたは知っていますか?】労働基準法における「労働条件の原則」を徹底解説!
働く上での法律を定めている労働基準法。企業で働く側と雇う側のそれぞれの権利と義務を取り決める労働基準法には様々な条文がありますが、それらの条文の最初に当たる第一条に書かれているのが大原則と言える「労働条件の原則」です。今回は労働基準法、そして労働条件の原則について徹底的に解説していきます。
目次
そもそも労働基準法とは?
労働基準法とは1947年(昭和22年)に施行された労働の最低基準を定める為の日本の法律です。日本の労働に纏わる法律である労働組合法、労働関係調整法と合わせて労働三法とも言われます。
雇う側と雇われる側の権利と義務について様々な観点から最低限のルールとして定められている法律です。
労働基準法に関する憲法の条文
憲法25条及び27条は国民が最低限の生活を送る為の権利と義務に関してを記している条文です。労働基準法はこの条文をより具体的に明示するべく作られた法律となっています。
以下がそれぞれの条文です。
憲法第25条
1.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2.国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
憲法第27条
1.すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2.賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3.児童は、これを酷使してはならない。
労働条件の原則とは?
労働基準法に記載された労働条件の原則の条文
労働基準法の中でも第1章総則第1条、つまり労働基準法の最初に書かれている条文が今回紹介する「労働条件の原則」という条文です。
労働条件の原則は以下の2つの文章で構成されています。
1.労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
2.この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
条文の中の重要なキーワード
労働条件の原則は労働基準法がどのような法律であるかを示す条文であると言うことも出来る内容で労働者を守る為の条文です。
中でも重要なのが1項の「人たるに値する生活を営むため」という部分と「労働条件の最低のもの」であるという点です。
労働条件の原則以降に書かれる事になる労働基準法の条文全てがあくまでも最低条件である事を示す意味で重要な意味を持っています。
条文にもあるようにこの労働者を保護する為の労働基準法を逆手に取って、経営者側が最低ここまでやっても良いと判断をする為の法律ではないのです。
「しなければいけない」と「努めなければいけない」の差
法律の条文の中でも難しいのが言い回しですがこの労働条件の原則の中にある中では特に「なければいけない」と「努めなければいけない」という部分には注意をする必要があります。
「なければいけない」は言い換えれば義務です。労働条件の原則の条文でいえば、「人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものである事」「労働基準を低下させない事」は義務だと明示しています。
一方で最後の「その向上を図るように努めなければならない」という部分はあくまでも努力しましょうという事で絶対の義務ではないのです。
社労士など労働基準法を扱う試験などでは特に頻繁に問題になる部分でもあるので労働条件の原則はしっかりと全文を覚えると共に、その意味の違いなども覚えておきましょう。
労働条件における休憩時間
労働時間が使用者の指揮命令に置かれている時間を指す一方で、休憩時間は労働者が休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間の事です。
労働基準法第34条では、休憩時間について次のように定めています。
労働時間が 6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分 8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない
また、労働時間が 6時間以内であれば不要ともされています。
ちなみに、来客や電話が来たら応対しなければならない状態は「手待時間」となり、基本的に労働時間にカウントされます。
労働条件における残業時間
時間外労働の上限規制において、法改正が行われました。
時間外労働の上限は原則として⽉45時間・年360時間、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができません。
大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から導入されています。(参考:厚生労働省)
労働条件における休日
労働基準法の定めでは、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないとされています。
休日と休暇の違い
休日と似た制度として休暇もありますが、両者には次のように明確な違いがあります。
・休日…労働の義務がない日のこと
・休暇…労働者の申請により、労働の義務が免除される日
法定休暇と特別休暇の違い
さらに休暇には法定休暇と特別休暇があります。
・特別休暇…特別休暇は福利厚生として与える休暇のこと。そのため各会社ごとで自由に与えられる
・法定休暇…会社から自由に与えられるものとは違い、法律で決められている社員の権利として使うことができる休暇
振替休日と代休の違い
振替休日と代休にも次のような違いがあります。
・振替休日…予め休日と定められていた日を労働日とし、そのかわりに他の労働日を休日とすること
・代休…休日労働が行われたあとに、その代償として以後の特定の労働日を休みとすること
労働基準法は最低のものでしかない?
労働条件の原則で示されているように労働基準法というものはあくまでも最低限の物を示しているものという認識は特に雇う側になる場合には意識しておく必要があります。
確かに労働基準法で最低ラインが決められていますがその最低ラインすらも守られていないような企業がいわゆるブラック企業などと言われて問題になっているのです。
もちろんこれらの労働基準法は現状に合わせて度々改定されています。昨今だと有給休暇の義務化などが物議を醸しましたがあれも労働基準法を改定する事で行われた改革の1つです。
これは労働基準法的にはあくまでも推奨であった有給休暇の取得に関しての内容が実際に働き手の有給休暇を取りにくいという声に合わせて改定された内容だと言えます。
有給休暇の義務化は一例ですが、法律の改定でこの最低ラインが上下する事は今後も起こり得るといえます。
労働条件は書面で明示しないといけない!?
労働基準法には様々な内容が定められていますがそれらを下に雇う側と働く側で労働条件を決めた上で働く形になります。
そしてこの労働条件は口頭ではなく必ず形に残る書面の形にした上で明示する必要があります。
もちろん明示した内容と実際の業務内容がかけ離れている場合などは契約違反として契約を解除する権利なども認められています。
ハローワークの求人と実際の労働条件が違う契約は出来る?
労働条件という意味で声として多いのがハローワークで求人を確認した時点での内容と実際に雇用契約を結ぶ際に契約内容が違うのはアリなのかナシなのかという話があります。
もちろんケースバイケースであるのは大前提ですが、ハローワークの求人はあくまでも入り口であり最終的な判断は雇用契約を結ぶ段階の書面で決定されるというのは労働基準法での基本的な捉え方になっています。
とは言ってもハローワークには働き手にとって甘言となる有利な部分だけを書いてマイナスの部分を説明しない、或いは全く異なる業務内容で求人を出すなどするとそれ自体が違反になる場合はあります。
労働条件の変更には双方の相互理解での上での同意が必要
また雇用時はもちろんですが実際に働くようになってから労働条件が変更されるという場合もあります。
労働基準法ではこのような労働条件の変更も双方が理解が必要であるとし、仮に契約した後でも説明不十分であったと判断される場合もあります。
基本的に労働基準法は働く側を守る法律なので特にマイナス面の説明に関しては厳しく判断される事が多く、変更した場合の働く側の不利益はしっかり説明する必要があります。
労働条件の原則を破った場合の罰則は?
憲法的な罰則はない?
労働基準法の理念というべき立ち位置にある労働条件の原則ですが、理念である故に具体性は高くないもので、訓辞に近いものなので違反した場合の罰則などは設定されていません。
労働条件の原則の次に書かれる第2条労働条件の決定など労働基準法だけでなくこのような訓辞的な条文は法律の中にも多く、特にそれぞれの法律の最初のいくつかは訓辞的な内容になっている場合が多いです。
実際には罰則がある
じゃあ労働基準法って守らなくてもいいの?と言われると決してそんな事はありません。
実際には労働基準法の以降の条文、また労働基準法から発展する形で作られたその他の労働法などにはしっかりと罰則のある違反行為について触れている条文も存在します。
一例ですが上記で紹介したハローワークの求人と実際の契約内容が明らかに違う、それも意図的にそのようにしている場合などは明確に罰せされます。
あくまでも訓辞である労働条件の原則に罰則がないというだけで労働基準法を初め労働法にはしっかり罰則のある条文の方が圧倒的に多いです。
使用者に労働条件の原則を守らせる為の組織が労働組合
労働基準法には労働条件の原則の次の第2条でも書かれているように基本的には働く側と雇う側は対等の状態で労働条件を決める必要性について記載されています。
しかし実際にはどうしても雇う側が上の立場になってしまいがちで雇われる側が泣き寝入りするというケースも珍しくありません。
特に人事権を持つ人に悪い印象を与えてしまっては懲戒免職はなくても自主退社に追い込まれるような例も珍しくないと言えます。
とは言っても働く側は雇う側の言う事に従うしかないという状況になってはいけません。そんな状況にならない為に存在しているのが労働組合です。
労働法では全ての働く側には労働組合に所属する権利、または労働組合の活動に参加する権利が認められています。
また労働組合に参加したからという理由で冷遇してはいけないなども法律で決まっています。
なかなか1人では行動を起こしにくい事でも上手く労働組合を活用する事で対応出来る事も多いので法律に訴える場合には1つの選択肢として活用してみてはいかがでしょうか?
まとめ
労働条件の原則は労働基準法に書かれた様々な条文の中でも一番最初に記載されている訓辞的な内容です。
以降に記載される条文の基本的な理念としての内容なので拘束力などは持っていませんがやはり労働基準法の基本となる文章ではあるので社労士などの試験などでは頻繁に登場する問題になっています。
労働基準法は経営者側も働く側も生きていく上で避けては通る事が出来ない法律の1つです。100条以上にも及ぶ条文がある為なかなか全文を丸暗記というわけにはいきませんが基本理念である第1章第1条に当たる労働条件の原則だけでも覚えておいてはいかがでしょうか?
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