アグリテックの具体例9選!日本の取り組みや背景もわかりやすく解説します
「アグリテック」をご存知でしょうか。アグリテックとは農業のIT化のことで、農業人口の減少が叫ばれる昨今、注目度が上がっています。本記事では、アグリテックが注目される理由や、アグリテックがどんな社会課題を解決できるのかを解説します。アグリテックをキャリアの選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。
アグリテック(AgriTech)とは
アグリテックとは主に農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)を合わせた造語です。
AIやドローン、ビックデータ、IoTといった最新技術を駆使することによって農業をIT化していこうとする技術や概念の総称を指しています。
近年、日本の農業の衰退が問題視されているなかで、課題の解決手段としてのアグリテックが注目を浴びているのです。
アグリテックとスマート農業の関係性は?
アグリテックと同じく、最近よく耳にする言葉が「スマート農業」です。
農林水産省によると、スマート農業とは「ロボット、AI、IoT等の先端技術を活用したスマート農業技術の研究開発、社会実装に向けた取組」を指すと定義されています。
つまり、スマート農業とアグリテックはほぼ同意義で使われていると言えます。
実際に、日本の農業を取り巻く課題を解決するため、2019年(令和元年)農林水産省は「農業新技術の現場実装推進プログラム」を公表、官民をあげてのプロジェクトとしてもスマート農業を促進しています。
また、経済産業省も2030年(令和12年)を目処に食料自給率の目標を45%と定め、農業の効率化を目指しています。
このように、テクノロジーを取り入れた農業改革は国家主導で進められています。
水産業・畜産業を除くスマート農業の2018年度市場規模は698億円にものぼると言われており、2030年度には1000億円の大台を超えると予想されています。
参考:農林水産省『スマート農業』
世界と日本のアグリテック市場規模
アグリテックの市場規模は世界で拡大中です。
アメリカが最も市場規模が大きく業界をけん引して来ましたが、これまで2位だったドイツが2025年頃にアメリカに並ぶという予測もあります。
さらに2021年以降、上位国はいずれも大きく伸びており、世界の市場規模拡大傾向は続くでしょう。
日本のアグリテック市場規模も拡大中です。
2021年度から2030年度までの9年間で、3倍の約2100億に達すると考えられています。
その背景について、以下解説していきます。
アグリテックが注目される社会背景
農業従事者の不足・高齢化
日本の農業従事者は年々減少し、高齢化の傾向にあります。
農林水産省から発表されている統計データによれば、1995年~2015年の20年間で414万人から約半分の210万人に、2020年時点では152万人にまで減少しています。さらに農業従事者の年齢層に注目してみると、2020年における65歳以上の農業従事者は実に69.6%と高齢化が進んでいます。
また、農業人口の減少と農業従事者の高齢化という2つの大きな問題は、次に説明する食料自給率の低下といった問題にもつながっています。
参考:農林水産省『2015年農林業センサス』/ 『2020年農林業センサス』
食料自給率の低下
令和2年度のカロリーベース(1人あたりの供給熱量)の総合食料自給率は37%、生産額ベース総合食料自給率は67%という数字が発表されています。
これは、アメリカの132%、93%や、フランスの125%、83%など世界の国々の食料自給率と比較すると非常に低いことが分かります。
政府は2030年までに食料自給率を45%まで引き上げるという目標を掲げています。
農業従事者が減少する中でこの目標を達成するには、データなどを活用して不作を最小限にとどめる、ドローンやロボットの活用で大量生産を可能にするなど、より効率的な農業を行うこと(=アグリテック)が重要です。
参考:農林水産省『世界の食料自給率』
異常気象の増加
台風や豪雨など異常気象が起きると農業に大きなダメージがあるのは想像しやすいでしょう。
それだけでなく、長雨や少雨、猛暑といった気候の変動も、農作物へ大きなダメージを与えます。
近年はこういった異常気象が増加しており、農業において安定的に農作物を収穫していくことは難しくなってきているのです。
アグリテックの具体的事例を紹介
ロボットやドローンによる農業の効率化により、人手不足を解消
ロボットによる生産物の収穫や植林、ドローンによる種まきなど手作業で行うものをAIロボットなどに任せることで効率化を図ります。また、AIに生産物の成長を学習させることで、収穫時期の判別を覚えさせることも可能になっています。
これにより、人手不足の緩和や農家の負担減少を実現することが可能です。
熟練農家のノウハウのデータ化により農業の難易度を下げる
熟練農家の方々は気温や降雨量といった細かい状況に合わせて、水や肥料を調整しています。しかしそれらの勘や経験は目に見えないもの。農業人口の減少とともに消えていってしまいます。
この知識・ノウハウをAIやロボットによって、目に見える数字やデータ、作物の育成状況画像といった形で次世代へ引き継ぐのもアグリテックの分野の1つになります。
過去の気象条件や先に例に挙げたノウハウを解析・データ化することで、誰でも熟練農家のように農業を営むことを可能にするのです。新規に農業をスタートする人やまだ経験が浅い人でも高品質な生産が可能になります。
AIによる作物の育成状況の判断
AIを使用すれば、作物の育成状況をカメラやドローンで手作業より簡易に把握することが可能になり、作物の収穫時期や必要な肥料の量なども簡単に判断できます。
その他にも、AIを利用することで人工衛星から気象データを集め、栽培する作物に適した土地を探すことも可能です。
ドローンによる農薬の自動散布
農業用ドローンを使った農薬自動散布は、代表的なアグリテックといえます。
農薬だけでなく肥料や種も同様に捲くことが可能で、搭載されたカメラにより農作物の育成状況を観察することもできるのです。手作業で行われていた作業をドローンが代替することで、農業全体の効率アップにつながっています。
この農業用ドローンは使用方法もシンプルで、普及率が近年急速に増しています。
農林水産省の資料によれば、機体登録数は2017年3月から2018年12月末までの間で6倍強に急増、その期間のオペレーター認定者数も約5.5倍に増加しています。
参考:農林水産省『農業用ドローンの普及に向けて』
温湿度センサーによる水分・日照量の自動制御
ハウス栽培などでは、日照量により自動で生産物に適した環境に近づける自動調光システムがあります。
生産物に与える水分量についても、日々変わる日照量の変化といった環境の中で必要最低限の水分量と肥料に調整して生産物へ与える潅水施肥ロボットが存在します。
以上のようなものを取り入れた農業は効率が良く、生産物の品質を高めてくれるでしょう。
農地のセンサーで気温や湿度を計測
農業にとって日々の天気や温度、湿度管理はとても大事です。また、近年異常気象が増えており、温度や湿度の管理が難しくなっています。
そこで、IoTと設置した温湿度センサーの組み合わせにより温度や湿度を計測することで、以下のようなメリットを受けられます。
・アプリやメールを通していつどこにいても生産物の状態を24時間監視・把握できる
・定められたしきい値を超えればアラームのような形でいつどこにいても端末さえあれば知ることが可能
・手作業でないため作業に費やす労力の大幅な削減に繋がる
IoTデバイスによる家畜の管理
IoTデバイスにより、牛の詳細な体調変化や発情の兆候などをリアルタイムに管理することもできます。これにより細かい家畜の状態を知ることができ、体調に合わせたケアが可能になります。
また、例えばICタグで子牛の哺乳作業を自動化している牧場もあります。
そこではドリンクステーションに子牛が近づくと、ICタグが個別に認識して補給乳量や回数などを適切に判断し、哺乳するといったシステムを設けています。
都市型農業
都市型農業は限られた土地や空間といった、消費地のすぐ近くで行われるアグリテックな農業を指します。例として次のようなものがあります。
・垂直農法:使用されなくなった倉庫や高層ビルの屋上などを利用する農法
・アクアポニックス:野菜と魚を同時に育てることなどをいう
都市型農業のメリットは、消費地の近くで生産することにより、輸送費のコスト削減ができてなおかつビルや倉庫といった施設のエネルギーを再利用できる点です。
スペーステックの利用
天地人と神明は、笑農和(えのわ)との協業により衛星データなどの宇宙技術とIT技術を組み合わせて栽培してきた「宇宙ビッグデータ米」の販売を開始しています。
農業では生産者の高齢化と減少にともなって、米以外を含む日本の食料自給力の大幅低下への懸念が叫ばれています。
それに加え、温暖化や気候変動の影響により、米などの生産量が減少するという予測もあります。
このような問題を解決するために、宇宙技術とIT技術を活用して農業を守る取り組みをしています。
日本で行われているアグリテックのイベント
アグリテックグランプリ
株式会社リバネスが主催するアグリテックグランプリ(旧テックプランナー)は、アグリテック技術を活用し、農林水産業にインパクトを与えるビジネスプランを募集しています。
リアルテック領域の技術シーズと、起業家の発掘育成を目的としたプログラムです。
これまでに最優秀賞を獲得したのは次のようなものです。
- ・鉱山跡地で自生するような植物の生育をたすける微生物を包埋したカプセルを使って、緑化を促進する「Imagine the Microbial-Capsule」(個人)
- ・国産花粉ビジネスという新たな産業の確立を目指す「Pollen Factory」(個人)
- ・省エネルギーで大量のマイクロ・ナノバブルを発生させる装置を開発した「eco-Bubble®で作成した高濃度酸素水による第二の緑の革命」(eco-Bubble®開発チーム)
アグリテック東京
AGRITECH TOKYO(国際農業材料技術博覧会東京)は、農業機械、肥料、基質、園芸用品、農薬、園芸用品のほか、 農業向けITソリューション、農業用ドローンなども集められるイベントです。
アグリテックサミット
アグリテックサミット(AG/SUM)ではアグリビジネスや農業のソリューションを視聴できるオンライン展示システム「NIKKEI NEON」や、オンラインワークショップの開催なども行っています。
主催は日本経済新聞社です。
アグリテックは今後も発展する
本記事では、アグリテックについてご紹介しました。
国の根幹である農業の人手不足は深刻な問題です。例として、農業従事者は高齢化しておりその人口も減っています。そのため、国をあげてアグリテック、いわゆる我が国ではスマート農業と呼ばれる試みが進められています。
アグリテックがさらに国内で普及すれば農業に従事する若年層も増え、農業自体およびアグリテックのさらなる市場規模拡大といった好循環も見込めるはずです。
今後ますます脚光を浴びる可能性が高い分野として、アグリテックに注目していきましょう。
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