RaaSとは?5つのサービス成功事例や小売業界の今後の動向を解説
日本でも注目され始めているRaaS(Retail as a service)とは「小売業のサービス化」という意味で、近年では多くの小売事業者が「RaaS」に注目しています。今回はRaaSが注目されている背景や注目企業、サービス事例を紹介します。
目次
RaaS(Retail as a Service)とは
RaaS(ラース)はRetail as a Serviceの略で、直訳すると「小売業のサービス化」という意味です。
SaaSやPaaS、IaaSなど、昨今様々なビジネスシーンで話題となっている「as a Service」モデルの小売業界バージョンと思うと分かりやすいのではないでしょうか。
この「as a Service」モデルとは、製品そのものを販売するのではなく、製品の機能をサービスとして販売することを指します。一言で表すと「製品のサブスクリプション」です。
「as a Service」は、近年さまざまな業界で注目されている新しいビジネスの形です。
RaaS=小売業者×テクノロジー企業
RaaSは、各小売業者がテクノロジー企業と協力し、これまで蓄積してきた顧客情報やノウハウ、テクノロジーなどを活用して、他の企業に向けた新たなBtoBサービスの提供を行います。
これにより、従来より高精度な顧客情報の獲得や、付加価値の高いサービスが提供できるようになりました。
実際にRaaSとして提供されているサービスは企業によって様々で、自社システムをRaaSサービスとして提供している企業もあれば、小売事業者が必要なインフラや役務全体をRaaSサービスとして提供している企業もあります。
「Robotics as a Service(ロボティクス・アズ・サービス)」
RaaSには「Robotics as a Service(ロボティクス・アズ・サービス)」を意味する同音異義語が存在します。こちらは主に製造業に向けて使用される言葉で、「ロボティクスのサービス化」を意味する言葉です。
製造関係の企業が、必要な時に必要な台数のロボットや制御システムクラウド上で利用できるサービスのことを指し、今回紹介する小売業者で用いられるRaaSとは全く異なります。
RaaSが注目される背景
RaaSが注目されるようになってきた背景には、消費者の行動の変化が大きく関係していると考えられます。
では、消費者の行動は具体的にどのように変化したのか、それによってなぜRaaSが注目されることになったのかについて解説します。
購買経路の多様化
数年前までは、店舗に行って商品を選んで買うのが当たり前でした。
そのため小売業者のマーケティングは、オンラインからオフラインの実店舗に誘導を目的としたO2Oや、ユーザーの「囲い込み」を図るオムニチャネルが一般的とされていました。
しかし現在は、ECサイトやサブスクリプションサービス、フリマアプリによる個人間取引などが普及しています。
以前よりも買い物のスタイルが多様化し、消費者は自由に選択することが可能です。
経済産業省によると、2020年の物販系分野のBtoC-ECの市場規模は12兆2,333億円と過去最大となっています。
2013年には5兆9,931億円であったことを考慮すると、約7倍にも成長しています。
それに伴い、O2Oやオムニチャネルといった小売業者の既存のビジネスモデルに行き詰まりを感じ始めたことがRaaS普及の背景となっています。
急激に発展したIoT・AI技術の発展による購買経路の多様化に対応するべくRaaSが注目されています。
(参考:経済産業省『令和2年度 産業経済研究委託事業 (電子商取引に関する市場調査)』)
生活スタイル・購買行動の変化
RaaSが注目される背景となったのは購買経路の多様化だけでなく、消費者の生活スタイルや購買行動の変化も関係しています。
コロナウィルスによる影響によりキャッシュレス決済やセルフレジといった非接触ニーズに沿ったサービスが急激に増加し、消費者行動の変化に拍車がかかりました。
さらに今後も、店舗から商品を持ち出すだけで決済ができる「レジレス」など新たな決済サービスの展開も期待されています。
ただ、このような外的要因によるサービスの変化は変動が激しく、全ての小売業者が柔軟に対応できるとは限りません。
システムを一から開発し、運用するだけの技術力や経験がない企業がほとんどであるのが現状です。
しかしRaaSが浸透すれば、DX化に成功した小売業者が保有するノウハウやシステム、データを共有できるようになるため、これまで自社開発が困難であった小売業者も柔軟に対応することが可能です。
小売業全体のDX化が促進する可能性があることから、今RaaSが注目されています。
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RaaSサービスの成功事例
日本ではまだ馴染みのないRaaSですが、アメリカではすでに実例が数多く存在しています。
そこで、実際にRaaSによる小売業者の革命はどのように起きているのかを実例を紹介しながら解説します。
Kroger
Krogerは、アメリカの35州に約2,800のスーパーマーケットを展開している巨大スーパーマーケットチェーン店です。
2019年にMicrosoft社が提供する「Azure Machine Learning Service」を活用し、電子ディスプレイ棚「EDGE Shelf」の開発に成功しています。
これは、店内に設置されたカメラで顧客の行動を取得・分析することで、最適なPOPや広告を店内のディスプレイに表示することが可能なシステムです。
また、電子タグによる商品管理システムを用いることで、スマートフォンのアプリで商品のバーコードを読み込むだけで決済が可能になりました。
現在は、電子ディスプレイ棚「EDGE Shelf」仕組みを他の小売業者にRaaS方式で提供しています。
日本でも、Kroger社が開発した電子ディスプレイ棚「EDGE Shelf」の仕組みの一部を用いて大日本印刷が「デジタルシェルフ」を開発・実験中で、2019年に丸善ジュンク堂書店に試験導入され話題となっています。
Amazon
世界最大のEC企業「Amazon」が2018年から展開を始め話題となっている「AmazonGo」は、レジ無しで決済が可能なコンビニエンスストアです。
ITベンダーだけでなく小売業者としての一面も持つAmazonだからこそ開発できた「Just Walk Out」という技術を駆使し、カメラセンサーとAI技術によって来店者の手に取った商品を把握することで、決済工程を行うことなく自動で決済をすることができます。
自分のカバンに商品を詰めて店舗を出るだけで、自動で決済が完了するといった全く新しい購買体験が可能です。
またAmazonは、「Just Walk Out」を自社利用するだけでなく、小売業にRaaSとしてサービスを販売しています。
店舗でのキャッシングが不要なのはもちろん、人件費の削減や顧客の購買行動の分析にデータを活用することもできるとして世界中の小売業者から注目を集めています。
b8ta
b8taは、サンフランシスコのベンチャー企業で、D2C(流通業者を通さずメーカーが直接販売を行う形態)製品などを展示・販売し、RaaSソリューションを提供している企業です。
b8ta自体は商品を販売しておらず、あくまでメーカーから依頼された商品を来店者に体験・購入してもらう場を提供するという新しい小売の形を展開しています。
メーカーは、月額固定の出店料金をb8taに渡すことで、b8taが保有する一等地の店舗スペースに自社製品を展示・販売することが可能です。
さらに、b8taの店内に設置されたカメラで顧客の行動を観察し、取得・分析したデータを売り上げとともにフィードバックを受けることができます。
自社製品の開発や改善、マーケティング施策に活かすことができることから、現在数多くのメーカーが注目しています。
これまでD2CブランドはWeb販売やSNS状での販売が一般的でしたが、口コミや評価が重視され始めていることから、実店舗で顧客がリアルに体験できる場の必要性が再重要視されています。
今後も拡大が期待されている企業です。
さらに、2020年の8月からは新宿や有楽町、渋谷に店舗を構え、国内でも注目を集め始めています。
no-ma
渋谷パルコと協業で、渋谷スペイン坂に「no-ma」がリアル店舗をオープンしたのは2021年4月の事でした。
ジャパンメイド展、氣志團展など多種多様なイベントへのスペース提供が行われ話題です。
また、独自Webメディア「OPENERS(オウプナーズ)」も運営しています。クリエイターやインフルエンサーとコラボレーションし、情報発信も可能です。
by REVEAL
by REVEALは、小規模で移動可能なポップアップストア(期間限定型店舗)をRaaSサービスとして提供しています。
特徴は、顧客が欲しいときに、欲しい場所でショッピング体験を提供する利便性で、たとえば展示会やパーティーなどのイベントや人の集まる場所に、簡単に店舗を出店し、商品を手に取ってもらったり体験してもらったりすることができます。
RaaSがもたらすメリット
低リスクで最新技術を活用できる
IoTやAIなどの革新的なテクノロジーの導入は、莫大な時間とリスクを伴います。
特にIT予算やIT人材が限られている中小企業にとっては新しい技術の導入に大掛かりな投資が必要です。
しかしRaaSであれば、先進的な大企業がすでに実践し実績を残しているシステムを低コスト、低リスクで導入することが可能です。
その上、システムが古くなり不必要になった際の変更も低リスクで行うことができます。
RaaSは、変化の激しい市場でも競争力を維持することができるといったメリットがあります。
顧客の行動データが分析可能
RaaSは、IT業者が持つ高度なIT技術と小売業者が持つ顧客データや購買履歴を掛け合わせ、さらに高度な顧客の行動データを分析することが可能です。
実際に数多くの企業が店内に設置されたカメラから顧客行動を取得・分析することができたり、リアルタイムで在庫を管理することができたりとこれまでとは違う視点からデータの取得や分析を行うことができるようになっています。
また、取得したデータを生かし、新たな事業計画や商品開発、プロジェクトの改善、マーケティング施策つなげることができている点もRaaSの大きなメリットとして考えられています。
新しいビジネスの創出につながる
中小規模の小売業者にとってメリットが多いRaaSですが、実はシステムを開発する先進的な大企業にとっても大きなメリットです。
自社で取得したデータやノウハウを提供することで新たな収益につながるだけでなく、自社開発したサービスの利用者が多くなるため自社内では気がつかなかったメリット・デメリットを発見することができます。
こうした発見は新たなビジネスの創出につながる可能性を見出すことができるという点で提供側にもメリットがあります。
スタートアップ企業を後押しする
RaaSの少ない資金でも他社の優れたサービスを利用できる仕組みを活用すれば、起業はより身軽なものになります。
実際に出店資金がなくても顧客にサービスを試してもらえて、その結果としてデータも手に入れられるのです。
RaaSサービスを提供する企業がデータ分析技術を持っている場合も多いため、そのまま活用できるのも魅力だと言えるでしょう。
小売企業が独自の知見でデータを分析し、それをITベンダーが活用するといった協業も始まっています。
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RaaSの今後
外的要因による顧客の購買行動は、今後も目まぐるしく変化すると予想されています。
また現在は、顧客に選ばれるためにはこれまでのように「安く仕入れて高く売る」ことだけでなく、「優れた顧客体験の提供」が必須です。
そのため、KrogerがMicrosoft社と協力して無人レジサービスを拡大させたように、今後はさらにデジタルベンダーと小売業者が協力を強め、問題解決に向けてRaaSの浸透を加速させていくことが考えられます。
D2Cが広まる
今後RaaSの進展によって、D2Cは広まりを見せると考えられます。
D2Cとは、小売店などに通さず直接顧客へ提供する取引方法です。
b8taのようなサブスクリプション型で提供されているRaaSを活用すれば、開店も撤退も好きなタイミングで行う事ができます。
これまで、ECサイトの増加に伴いショールーミング化しつつあった実店舗活用のためのビジネスモデルとしてO2O(Online to Offline)などの施策が有効的とされていました。
ところがすでにIoT・AI技術の発展によってあまりに購買経路が多様化した現代では、その効果は減少傾向にあります。
販売数に関わらず一定の料金を得られるサブスク型店舗と、実店舗を構えるリスクを回避できるメーカーといった関係は今後増えて行くでしょう。
POSデータの活用
実はRaaSとPOSレジシステムの相性は極めて良く、さらなるサービスが生まれる可能性を秘めています。
RaaSのベースにはPOSデータがあります。
顧客の年代・性別といったデータや購入金額・来店周期といった情報を一元管理できるPOSレジシステムは今後ますます小売業で重宝されるはずです。
店舗がPOSデータの活用幅を広げる事で、新たな顧客体験に期待が寄せられています。
CX/EXの向上による導入拡大
導入のメリットとして低コスト、低リスクを挙げましたが、これはDX化のハードルを大きく下げる要因となるでしょう。
DXにより得たデータを活用する事で、企業はCX(顧客体験)/EX(従業員体験)を向上させやすくなります。
ユーザーとしても満足度が向上し、LTV(顧客生涯価値)の底上げにつながると考えられます。
ハードルが下がる事と成功事例が増える事で、今後は小規模の小売店舗でも気軽に導入できるようになり、それに伴いRaaSはさらなる進化を遂げるはずです。
RaaSは今後も発展が予想される
従来のような小売業界の常識だけでは、購買経路の多様化や顧客の購買経路の変化に柔軟に対応することが困難になってきています。
そこで、IT技術と小売業者の技術やノウハウを融合することが重要です。
RaaSは、デジタルベンダーと小売業者のそれぞれが抱える問題を解決するための手段として注目を浴びています。
急激に進化していく小売業界に対応するためにも、積極的にRaaSを活用していくことが各小売業者に求められていると言えるでしょう。
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